「ぼく先」原稿展示のはなし(3巻内容含む)
神戸栄町通りにあるレトロビルの5階に書店1003(センサン)がある。
こちらで「ぼくと先輩」は3巻発売を記念していただき、たいへん光栄なことに全巻平置き&原稿展示の特設が2022年2月14日まで開かれている。
コロナウィルスの感染再拡大の時期に当たり、街から人が消えるのではと危ぶんだが、そもそも書店のお客さまはお一人でいらして、換気のよい(ドアはいつも開いている)店内で、静かに本を選び、会計時に店主とひとことふたこと本についての言葉をかわすのみなのである。
つつましい喜びのなかにいられる「ぼく先」。わたしは誇らしいよ。
展示されている原稿は新3巻のなかから1003店主であられる奥村さんに選定していただいた。
今回は選ばれた4ページ分4枚の画について解説していく。技術的な面、物語的な面、それぞれを語る。
2021年12月、入稿まえギリギリまで描いていた手描きの原稿だ。文字通り血と涙の肉筆画だ。わたしにはまだ生々しく、ご覧になるかたには本で見るよりも新鮮なものに違いない。
①「ぼくは死んだら 先に死んだ人と会えるのか?」
(本文30ページ)
近場の表情がむつかしい絵だった。20枚は描き直した。いちど決定稿としたものも翌朝気に食わず左側だけ新たに描き直した絵を貼り付けた。背景や薄い線は鉛筆。印刷所の濃淡の再現がすばらしい。
わたしには生きている者がえがく死後の観念がヤワで陳腐に思えてならない。
死んだら死んでいるだけなのだ(ハイロウズのマーシーと同じことを言うようだけれど真理だ)。
死ぬまでどうするかだ。たしかに生きていたあの人が、彼の生をどうしたか、どこへ行き何を言ったか、わたしが受け取り残ったものは何なのか。
それを自分の中に感じるならば、虹の橋など夢に見ない。
②「いない ほんとうに いない!」
(本文43ページ)
こちら半分架空の館山道。というのはアクアラインを抜け千葉県へ入ったからといって、(千葉東岸名物である)工場地帯を走り抜ける高速道はない。
フレアスタックが暴風雨のなかでも燃えさかるのは、ほんとうだ。
千葉へ越した当時、悲しみと寂しさが取り付いてくるので走ってばかりいた。
自分の中に感じているものがいなくなってしまうと恐れる日もある。
そしてひとりだと。
いない。ほんとうに、いない。これも真実だ。
③絵本”ボン”を読む近場
(本文16ページ)
近場のバイブル的絵本「ボン」シリーズ。その存在は1巻に記したが詳細は描かずにきた。
少年ボンは少しだけの魔力を持ち、ひょんなことから台所のスポンジに一日だけの命が宿る。ボンへの恩義から彼の愛する街を災害から救うスポンジのギュン。瀕死となったヒーローを助ける街の人たち。涙なみだ…。
水を吸ったスポンジを絞る大男ふたりは屈強な海兵だ。このコマが生原稿の見どころ。
④おどるみんな「想像以上だ!」
(本文54ページ)
本文作画の一番始めに描いたページ。
なぜ54Pからかというと、ここへ近場を連れていくためであり、これから本文60ページ超と戦うわたし自身のためだった。
既巻よりもイラスト寄りのタッチにしたくて、初めて「漫画用」画材(いわゆる漫画家らしい神器であるペン先・ペン軸・コミックインク)を用いるため、どのような絵になるかを作画一日目に本気描きしておきたかった。
いつもの実家だけれど、バンドがきていて、尊敬する松未先生も演奏に参加しちゃって、近所の人たちは酒やら果物やら持ち込んで、こどもたちは踊っている。
最後に。発売フェアにともなって制作した、1003での「ぼく先」ご購入特典ペーパーについて。
絵と文(4コマ漫画つき)の両面仕様になっていて、絵は主人公の遠と近に、このたびのフェア企画をしてくださった、はるの文庫さんと1003店主である奥村さんのお姿をデフォルメして描かせていただいた。
奥村さんはご友人に「似ている」とおっしゃっていただけたようで一安心。小柄でかわいらしい彼女が入荷した本の山間からちら見えする。それは1003の日常風景。
描かせてもらうたびに縮む気がするはるのさんは、現実は漫画よりも漫画で、縁をつなぐ妖精的活躍でわたしを励ましてくださっている。
おふたりのご尽力で実現し、お出かけくださったお客さまのお目に触れたこと、大きくなる感謝をどうしたらようものか、まずは神戸方面へ深く頭をさげている毎日である。
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「ぼくと先輩」第3巻刊行記念ミニ原画展は2月14日(月)まで
(定休日:火・水)
神戸栄町1003
1003オンラインストアでも「ぼくと先輩」シリーズいずれかご購入で特典ペーパーが1枚付いてきます。https://1003books.stores.jp/
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今回もすべて読んでくださってありがとう。
感謝します。
(2022年2月7日 木村さくら)
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